~2023.3.11 春の唄~
思うに、四季の移り変わりの中でも「春の訪れ」というのが、一番印象深い気がする。
桜が咲いたり、卒業式・入学式があったりしてドラマチックな時期ということもあるし、フィジカルイヤー(会計年度、事業年度の事。国などの公共機関は4月1日がスタート日である。)の意味でも、また四季の呼び方「春夏秋冬」を見ても、「春」がスタートの季節というのには異論はあるまい。
今井美樹のアルバムに「retour」(1990年発売)という名盤がある。このアルバムを発売した時のインタビューでタイトルの「retour」についてその命名の経緯を彼女自身が話している。「retour(ル・トゥール)は仏語で再生するという意味です。当時『思い出に変わるまで』(松下由樹演じる実の妹に石田純一演じる婚約者を奪われるというドロドロの愛憎劇)というTVドラマの収録が終わったばかりで、ドラマの沢村るり子に心身ともにはまり込んでいた私は、婚約者を実の妹に奪われるというドラマ上の悲惨な経験に、実の自分(今井美樹本人)も大きなダメージを受けて、しばらくは立ち上がれない日々が続きました。そのブルーな日々の中での新アルバムのネーミング決定をしなくてはならず、一度全てを失った自分がまた新たに再生していくという意味で「retour」にしたわけです。」
フランス語で「春が来る」をフランス語で言うと「Retour du printemps」と言います。季節の到来の表現に「retour」を使うのは、春だけ。
やはりフランスでも、「冬で一度死んだ世界が春に再生していく」という季節感なんだろうと思う。
閑話休題
バブルの頃までが、資生堂やカネボウを筆頭にTVでの化粧品のCMが全盛期だったと思う。最も化粧品がTVCMで売れていた頃(例えば世良公則の「燃えろいい女」で売り出した「ナツコ」シリーズのコンパクトは史上最高売上らしい)だから、キャンペーン自体も結構派手だった記憶がある。
特に春のキャンペーンは派手で、タイアップのCMソングにも名曲が目白押しだ。ざっと思い出すだけでも、
- 不思議なピーチパイ/竹内まりや
- う、ふ、ふ、ふ/EPO
- 不思議なピーチパイ/竹内まりや
- 春先小紅/矢野顕子
- 君は薔薇より美しい/布施明
- 春の予感/南沙織
- Rockn louge/松田聖子
ざっとあげただけでも、こんな感じ。いずれも劣らぬ昭和の名曲と言えよう。その中でも僕が今でも愛して止まない一曲がある。
それは尾崎亜美が歌う「マイ・ピュア・レディ」。ちょっとだけハスキーな声で始まる「ちょっと走り過ぎたかしら、風が吹いていったわ。やっぱり頭の上はブルースカイ。」という当時では珍しいボサノヴァテイストの印象的なイントロ。まだデビュー3曲目という新進気鋭というにはあまりにも無名のアーティストがいきなり抜擢されたのは、1977年春の資生堂のキャンペーンソングという当時では恐らくNo. 1の花形のタイアップだった。
CMモデルは、当時24歳の細身の代表選手小林麻美だった。サーフィンをしている彼氏を双眼鏡で見ながら浜辺で待つ、オレンジ色のパーカーを着た彼女のルックスがあまりにも鮮烈で当時非常に話題になったCMで、小林麻美はこのCMで一気にトップモデルへと駆け上がる事になる。そしてこのCMのラストシーンは、パーカーのフードを被った小林麻美がマグカップのコーヒーを吹いている場面に「マイ・ピュア・レディ」の文字がかかり、尾崎亜美のCMソングの有名なフレーズ「たった今、恋をしそう。」が被っていく。尾崎亜美もまた、この曲によってあシンガーソングライターとして、またソングライター(1978年の春の資生堂のキャンペーンソングは、尾崎亜美が作詞作曲した「春の予感 -I’ve been mellow-」を南沙織が歌ったものだ)としても一気にトップスターダムへと上り詰めることになる。
明るい時代のライトな空気感が漂うボサノヴァタッチの軽妙なメロディ。弾むような春の出会いの予感を表現した印象的なリリックス。
2月の終わりから3月の頭の、暖かな日には真っ先に思い出す曲だ。
令和5年3月1日は、最高気温19℃最低気温11℃と前日から引き続き春本番の気候となった。春のジャケットにスプリングコートを羽織る、自分としての春の立ち上がりの日になった。
そしてすぐに桜の季節を通り過ぎ、季節の針はまた次を指して進んでいく。。。
「マイ・ピュア・レディ」
歌:尾崎亜美
作詞:尾崎亜美
作曲:尾崎亜美